ASは脳の使う場所が違う? 〜シュルツ博士の研究結果(2000年)〜
米国のシュルツ博士達は、14名の自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群または高機能自閉症)の方と、28名の定型発達の方の脳の使い方について研究し、同じ対象物を見せたときの両者の脳の使い方の違いを測定しました。
実験の内容は、人と物のそれぞれの写真(絵)に、違うものと同じものという組み合わせを設け(例:「人」で「違う」、「人」で「同じ」、「物」で「違う」、「物」で「同じ」)、これらを見たときの被験者の脳画像を記録、比較するというものです。※実際に使われた写真(絵)
それぞれの写真(絵)を見せて、被験者に「枠の中は同じか違うか」という質問をした結果が左記の画像です。上段および中段が定型発達のグループ(NC1とNC2)で、下段が自閉症スペクトラム障害のグループ(Autism)という配列になっています。
左列の画像が人の顔(face)を見たときのものですが、上段および中段の定型発達のグループでは、緑枠の部位に血流増加が認められるのに対し、下段の自閉症スペクトラム障害のグループでは、緑枠の外側に血流増加が認められます。ちなみにこの部位は、定型発達のグループが「物」を見たときに血流増加した部位にあたります(右列上段および中段の画像)。
この実験により、アスペルガー症候群の方は定型発達の方とは違う「脳の部位」を使って、情報を処理していることが示されました。
進む「脳」からの解明
アスペルガー症候群がハンス・アスペルガーによって発見されたのは1944年。当時は注目されずにいたものを、1981年にローナ・ウィング医師により紹介されてから世界で徐々に研究が始められ、1992年には、ついにWHOに診断基準が設けられました。
20世紀の終わり頃には、「脳」からこの症状を解明していこうという動きが出てきます。そして、上記シュルツ博士、バロン・コーエン博士ほか多くの研究者の成果によって、「脳の使い方に違いがある」ということが、次第に明らかになってきました。
ついに2003年には、現象としての「脳の使い方の違い」からさらに踏み込んで、「なぜ(上記実験のように)脳の使い方に違いが生じるのか」という原因(素因)までを明らかにした論文が発表されています。これは世界でも数少ない脳画像診断の専門医であり、かつ小児科医でもある日本の加藤俊徳医師の発見によるもので、海馬回旋遅滞症(またはIC理論)という名前が付けられています。
この理論の画期的なところは、今まで明快な答えが出ていなかった「なぜ発達障害は(一見関連性がない)知的障害とコミュニケーション障害を併発するのか」、「なぜ2つの障害がグラデーション(スペクトラム)的に生じるのか」という根本的な問いにも説明がつくことで、アスペルガー症候群をはじめとする様々な発達障害を統合的に解明するモデルとして注目が高まっています。
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